夕方を過ぎた頃一本のフリーダイヤルが鳴った。
相談内容は男の人の素行調査の依頼だった。依頼者はその男性に400万円を貸しているが一向に返す気配がなくさらに200万円貸してくれと言ってきている。貸して良いものか不安になり相談したようだ。相談員がなぜお金を貸したのか尋ねると株で失敗したのでお金が必要だと言われすぐに返せるからと強く言われたものだから貸してしまったのよと悲しげに依頼者は答えた。一体どんな仕事をしているのと相談員が尋ねるとパイロットだと言う。それを聞いた私達はベタな嘘だなと思えた。しかし依頼者はそれを信じている。探偵は下手なことは言えない。依頼者の気持ちを考えればなおのことだ。依頼者にその男の住所は知っているかを確認した。知っていると答えた依頼者は紙に住所を書いて探偵に渡した。
「わかりました。ではこの住所の男性の素行調査をおこないます」宜しくお願いします。と依頼者は答え、調査が始まった。探偵は教えて頂いた住所を張り込んで見たが出てくる人は女性と子どもだけだった。本当にパイロットなら海外便にも乗るかもしれない。そう考えるとこの住所を張り続けるしかなかった。張り込みを続けて二週間が経過した。このままでは予算的にも厳しいし埒が明かないと探偵は判断し、依頼者に男性と接触してもらいその後をつけて行き居住先を割り出す方法を提案した。とりあえず20万円貸すからという名目で依頼者に男と連絡をとりお金を渡す日時を決めてもらった。
約束の日男は我々の前に姿を現した。背が高くやせ形の男だった。男はお金を受け取ると30分もたたないうちに依頼者と別れた。そして我々は男の後を追った。地下に停めてあった黒のセダンに男は乗って千葉方向に車を走らせた。聞いていた住所とは真反対の方向だ。我々は慎重に男の車を追った。40分ほど走ると車は住宅街へと入って行った。探偵は速度を落とし男の居住先を割った。今日の調査はこれまでとし、明日の朝イチから調査を開始することにした。
翌朝男の居住先に現着し監視体制に入った。9時45分頃男は出てきた。男の車を追って行くと男は近くのパチンコ店へ入って行った。パチンコ店に内定に入ると男はパチスロを打っていた。翌日もパチスロを打っていた。この男は完全に無職だと探偵は思った。
依頼者に調査内容を伝えると「私も彼がパイロットだとは思ってなかった。ただ騙されているということを自分自身で納得出来なかったのよ。好きだったから。」と涙ぐむ依頼者。依頼者の為に探偵はどうにかあの男に報いを受けさせなければならないと思った。探偵は男の素行を徹底的に調べた。素行調査の結果は男性は既婚者で子供が二人いる。妻は近所のスーパーでレジうちをしている事が判明した。株の話もパイロットの話も住所も全てでたらめだった。探偵は依頼者と男と対面で話す機会を設けた。探偵はパチスロを打っている男に話しかけ事情を話した。男は逃げる素振りもなく話し合いに応じた。
依頼者は男に呆れた顔でこれまでの不満、騙された怒りをぶつけた。嘘がばれた男は下を向いたまま動かなかった。一言もしゃべらず一時間が過ぎた。そこで探偵は「あなたの奥さんにもこの場に来てもらって話し合いをしましょう」と提案した。でなければ話し合いにならない。するとあわてて男は金は必ず返すから妻だけには言わないでくれとせがんできた。探偵は「今すぐ奥さんに電話してここに来るように言ってください」と詰め寄る。夫は慈悲を乞うような目で探偵をみて、それだけは勘弁して下さいと嘆いた。依頼者にこれからどうしたいのか尋ねるとお金さえ戻ってくればそれで良いとなげやりに答えた。探偵は男に420万円明日迄に返済しなさいと告げると男はそんなお金もうありません。と小さな声で答えた。あんな大金まさかパチスロで使ってしまったんじゃないでしょうね?生活費とパチスロで全部使いました。と下を向いたまま答えた。男の背中がやけに小さく見えた。結局公正証書を作り月5万円づつ返済する約束をしてこの詐欺師とは話をしたつけた。もし返済が滞れば奥さんに何もかも話すという文言も入れた。本当にパイロットと名乗る詐欺師がいることに探偵一同驚いた。
