時は止まることなくまた戻ることなくただ過ぎていくだけだ。
私はあの頃に時を戻せるものなら戻してもらいたい。と不可能なことに願っている哀れな男だ。私は妻に探偵をつけられ、浮気現場を撮られていたしまい大切な家庭を失った。
あの時までは妻を失うとは思いもしていなかった。私は行きつけのスナックへ週4日のペースで足を運んでいた。お目当ての子がいない訳ではなかったが、あのスナックは私の居場所があった。仕事で辛い思いをしたときなんか、そのスナックに行き酒を飲みながらいろんな人と話すことが唯一の楽しみであり、わたしの憩いの場だった。愚痴をこぼしても皆が慰めてくれて私のストレスは軽減されていった。しかし、もう私はあの素晴らしい憩いの場所であるスナックにはいけなくなった。
私はスナックのお気に入りの女性と恋に落ちた。お互いいい年なんだが気持ちは高校生のように弾けた。私は年がいもなく毎日彼女の事を想うようになった。彼女の優しさに私は包まれてしまった。私は既婚者でありながらこの包まれた優しさを手放す事は出来なかった。
彼女が仕事が終わるのが深夜一時それまで店で酒を飲みながら彼女を待った。彼女が仕事が終われば軽く食事をして彼女の自宅へ仲良く帰る。こんな幸せな日々が長くは続かないだろうと思っていたが私は彼女の優しさに夢中になっていた。私は罪を犯しているという認識はなかったのだ。ただ日頃のストレスや脱力感を癒してくれる彼女にのめり込んでいったのだ。家庭もかえりみず…。
私は毎日朝帰りだった。妻はろくに話もしてくれない。家庭には私の居場所はなかった。いやそうしたのは私自身なのだ。
ある日いつものスナックで酒を飲み彼女と一緒に帰るつもりでいたが彼女が今日仕事の後ママと用事があるから今日は真っ直ぐ家に帰ってというので寂しく家に帰った。
家に帰ると妻はリビングで明かりも着けずに座っていた。「何やってんだ。」と言って私はリビングの電気をつけた。するとリビングテーブルの上に写真が並べられていた。私はドキッとした。まさか浮気がバレてしまったのかと。妻は黙ったまま私の顔すら見ずに写真を見ろと言わんばかりに写真を指差した。私は写真を一枚一枚見てみた。スナックのあの女性と食事しているシーンや女性宅に二人で入っていくシーン、そして私が一人で朝方彼女宅から出てくるシーンが何枚もあった。私は言葉を失った。私は「何でこんな写真があるんだ。」と妻に尋ねると、妻は「あんたわかんないの、探偵に浮気調査を依頼して浮気の証拠を撮ってもらったのよ。毎日朝帰りでどこで何をしているのかと思えば、場末のスナックの女にうつつを抜かして馬鹿みたい、私はあなたと離婚します。慰謝料代わりにこのマンションは私が頂くわ。一週間猶予を与えます。その間にこの家から出ていってくださいね。まー。スナックの女性宅にでも行けばよろしいのではありませんか」と妻は完全に腹をくくっている。「考え直してくれないか、あれは遊びなんだ。度が過ぎたことは謝る。」私は心から謝罪した。妻は全く聞く耳をもたなかった。
私はスナックの彼女に連絡を入れた。する「先日あなたの奥さまが私のお店に尋ねて来られたわよ。ママも同席してもらい奥様は私に慰謝料請求したいと思っているが私の夫が仕出かしたことなので慰謝料請求はしません。その代わり二度と会わないで頂きたい、そしてお店にも出禁にしてもらいたいと話をしてこられたのだから私はあなたとはもう会えないわ。寂しくなりますね。」と機械的に言われた。心が締め付けられる思いになった。私は不動産屋に行き会社に近い場所のアパートを探した。八畳一間の殺風景な部屋だ。私は今58歳だ。後二年も働けば定年だ。定年後は妻とのんびり生活していこうと思っていたんだ。今まで妻は長い間私を支えてきてくれた。そのお返しをしたいと思っていたがすべては私がダメにしてしまった。戻れるものなら戻って妻を取り戻したい。と不可能なことを嘆く私だった。
