私は静かな場所で食事をするのが好きだ。ざわついた店では落ち着いて食事ができないタイプ。
ある日の夕方同僚から食事に誘われたので場所も聞かずに承諾した。勤務が終わり私は同僚に連れられ店へと入った。そこは居酒屋のようなざわついた店で思わず私は後ずさりしてしまった。うわぁ、こんなとこで食事する気にはなれないと心の中で思ったがせっかく同僚が誘ってくえたのだからと思い席に着いた。ビールと冷ややっこをとりあえず注文し、お疲れさまと言ってビールをぐっと飲んだ。しばらくして注文していた焼き鳥や山芋の鉄板焼きなど居酒屋おきまりの料理が出された。
しばらく同僚と仕事の話をしていると「相席いいですか?」と店員が訪ねてきた。私は心の中では無理だと思ったが同僚は二つ返事でお客を招き入れた。私は急に肩身の狭い思いになったが同僚は平然としていた。私はこのような飽和した店は苦手だ。同僚の手前言い出せなかったことを後悔していた。
横に座ったのは女性だった、しかも私のタイプの女性だったので尚更いずらくなってしまったのだ。各々が食べたいものを食べ飲みたいもの飲んだ。私はビールを二杯とハイボールを三杯呑んだ。同僚はビールを飲んだ後冷酒を呑んでいた。いい具合にお腹も膨れてきたので帰ろうとしたとき、隣の女性が私にお酒を勧めてきた。私は驚いて結構ですと一旦は断ったが内心うれしかった。一旦は断っておきながら私はおちょこを持って彼女の冷酒を頂き、乾杯をした。そこから自己紹介が始まり見知らぬもの同士が仲良く酒を交わした。冷酒が効いてきたのか私は酔っぱらってきた。さらに隣の女性からお酌をされるとついまたのんでしまう。そうしているうちに私は隣の彼女のことが気になり始めた。私のタイプの女性だったので酔いも回り興奮状態になっていった。
私は既婚者だということを忘れて彼女を口説き始めた。それを見た同僚は口説けくどけと言わんばかりの顔つきで私を見ている。私は彼女にどこに住んでいるのか尋ねた。そんなことを尋ねてなんの意味があるのかと自分でも馬鹿げたこと聞いていると思った。私は何を求めているのか、ただ隣の女性を抱きたいとそう思っているだけなのかもしれない。どんな性格でどこに勤めていて彼氏はいるのかなんか正直どうでもよかった。ただ性欲が湧き出ている。ただのエロじじいなのだ。それを悟られないようにと必死だった。どうやってホテルに連れ込むかばかりを考えていた。よく考えてみれば話しかけてきたのはあっちのほうだ。酒を勧めてきたのも女性のほうだ。チャンスはあるはずだ。なんて淡い下心を出し始めた。時間は10時を回った頃だった。みんないい感じに酔っていた。そろそろお開きにしようと同僚が言い始めた。おいまてとっ心で叫ぶ私。
私は勇気を振り絞り「別の店で呑み直しませんか」と隣の女性を誘った。彼女は待っていたかのように「いいわよと」答えた。やったぁと心の中で叫ぶ私。まるでこどもが新しいおもちゃを買ってもらった時のように喜んだ。
私たちは店を出て別れの挨拶をした後別々の方向へと歩いた。酔った私は彼女の手を握った。握った手を彼女も握り返してきた。私は思わずドキッとした。このままラブホテルに行こうと誘いたかったが勇気がなかった。すると彼女は「どこか二人きりになれる場所に行きませんか?」と言った。私は「じゃあホテルでゆっくり呑み直しませんか?」と尋ねると彼女は黙ってうなずいた。私たちはタクシーを拾い中州のラブホ街へと向かった。
お互いシャワーも浴びずにベットに横たわり厚いキスを交わした。酔っていたせいかキスしている間頭の中ががくるくる回っていた。私は彼女の中に入り、彼女は私を受け入れ私は彼女の中に吸い込まれていった。
セックスが終わると二人は疲れ果てるかのように寝てしまった。目が覚めたのは朝の4時だった。彼女は髪を鎔かし、お互い無言で洋服を着てラブホテルを出たた。お互いがタクシーを拾い「またね」と言って彼女は去って行った。私たちは連絡先を交換していない。もう二度と彼女と会うことはできないと思った。一夜限りの火遊びだったと思えば、妻への罪悪感を薄れていった。なんと不思議な夜だったんだろうと思いながら家路へと向かった。
