私は電車通勤だ。いつも7時半の特急電車に乗って会社に行く。いつも同じ3車両目の車両に乗るようにしている。朝はかなりの人数が乗車してくる。その中で私は気になる女性がいるのだ。なぜか気になる。毎朝、3両面の車両に乗っているのは彼女に会いたいからだ。彼女に会うのが楽しみで通勤している。彼女に出会ってからというもの電車通勤が楽しくてたまらない。
いつか声かけようか悩んでいたがなかなか勇気が持てない。きっと私は彼女に声をかけられずにもがいてしまうだろう。電車の中でナンパなんてできっこない。彼女は既婚者なのかどうなのか気になっている。夫がいれば声をかけても無駄だ。その前に声なんかかけれずにいる。
彼女は、通勤中携帯も見ずにつり革につかまりまっすぐ正面を向いている。私はその彼女の横顔を毎朝みているのだ。
ある日の朝だ、私はいつも通り彼女の横顔に見とれていた。すると彼女が振り向いたとき彼女と目があった。私は一瞬にして氷ついた。私は彼女の目をそらすことが出来なかった。彼女が目をそらすまでは…
私は彼女と目があってからと言うもの彼女の事で頭がいっぱいになった。彼女が私の頭を占領した。
翌日の朝も私は彼女の横顔を見つめていた。するとまた彼女が私の方に振り向き目と目があった。私はとっさに会釈をした。すると彼女も軽く会釈してくれた。私と彼女との距離がぐんと近づいた気がした。
その翌朝、私はいつもの車両に乗って彼女を姿を見渡したが、彼女の姿を見つける事が出来なかった。急に虚しくなった、私の唯一の希望とも言える存在の彼女に今日はあえない。仕事への意欲まで失った。どうして彼女はいないんだ。風邪でもひいたのかな、もしかして違う車両に乗っているのだろうか、通勤時間が変わったのかとも思ったがそれはないと思った。一体彼女はどこに行ったのだろう。考えてもわかりはしない。
私は妻とは上手くいっていない。話を全くしていない。夫婦で最も必要なものはコミュニケーションだとわかっているがいつからか私達はお互いしゃべらなくなった。セックスも最後にしたのはいつだったかさえ覚えていない。いつか離婚する日が来るのだろう。それがいつかはわからない。とにかく家に私の居場所はない。妻は専業主婦だ。家庭のことはきちんとやってくれる。それが義務のように。妻はもう私の事を愛してないだろう。離婚したら妻は働くことになる。それが嫌で今のぎすぎすした生活に甘んじているのだろう。私はこれまで浮気をしたことがない。なので、探偵とか浮気調査とかは無縁なものだ。これから私は妻とどうして向き合えばいいのかわからなかった。ただ今は3両目の車両の女性に夢中で心のバランスが取れている。なぜ今朝、彼女はいなかったのか風呂に入りながら考えていた。そう。私の頭は彼女に占領されているのだ。
翌朝、期待を込めて車両の乗り込んだ。するといつもの位置に彼女が立っていた。それだけで心がざわついた。暫く彼女の横顔を見つめていると彼女は笑顔で私の方に振り向き、また正面を向いた。彼女が私に微笑んでくれた。信じられないことだ。私に微笑むなんて…
私と彼女の距離はどんどん近くなって行った。
私は翌朝彼女に、おはようございますと声をかけてみようと寝る前に考えていた。お陰で興奮してなかなか寝つけなかった。
気負いせず、冷静になっていつもの車両に乗り込んだ。私は彼女の右横にさっと立ち、おはようございます。と一言声をかけた。私の心臓は悲鳴をあげていた。彼女は私の方を見て、おはようございます。と挨拶してくれた。その後は話が進まず黙ったまま、二人は並んで駅につくのを待った。でも凄い進歩だ。話は出来なかったけど挨拶する事ができた。翌朝は何か話をしたい。何か話題を考えないと、いきなり結婚してますか?なんて聞くのは失礼だと思う。じゃ、一緒に食事でもどうですか?なんて聞くのは抵抗がある。私はワクワクしながら彼女になんと話すか考えていた。このぎすぎすした家で唯一の救いが彼女の事だ。私は彼女と付き合う事が出来れば妻とは別れようと思っている。あくまでもそうなればのはなしだ。翌朝彼女に何を話すかまだ考えていた。
私は彼女に勤め先を尋ね事にした。それがベターだと思った。翌朝いつもの車両に乗り、彼女と挨拶を交わし、「どちらにお勤めですか?」とさらっと尋ねた。「西区役所で働いてます。」と優しい声で答えてくれた。私は自分の勤務先を言って、思いきって「結婚されてますか?」と尋ねた。彼女は「えーしてますよ」と言った。私は一気に気分が落ち込んだ。彼女も私も既婚者だった。それでも私は毎朝彼女と挨拶をしてくだらない話をして過ごしている。
私は、一時だったが幸せな感情に包まれた。妻は私を嫌っているのか、どうなのかちゃんと話し合わなければならない。私の恋は終わったのだから…
